仮想通貨を取引するには、DEX(デックス)あるいはCEX(シーイーエックス)の2つの取引所を利用する方法があります。中でもDEXは、管理者不在で分散型取引が可能なためCEXにはないメリットが数多く存在します。
確実に増え続けるブロックチェーンサービスを活用するために、DEXの存在は重要度を増す一方といってよいでしょう。
そこで今回は、DEXについて、CEXとの違いや仕組み、メリット・デメリット、さらに将来性について解説します。
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DEXとは?
DEXとは、Decentralized Exchangeの略で日本語では「分散型取引所」を意味します。イーサリアムやポリゴンといったブロックチェーンを基盤とし、管理者が不在で個人がP2Pにより仮想通貨の直接取引ができるDApps(分散型アプリケーション)の一種です。
こちらの記事でDAppsの仕組み、活用事例について詳しく解説していますので併せてご覧ください。
取引の内容は、スワップ(トークンの交換)やトークンの貸し借りなどが主となり、ユーザーは秘密鍵を自ら管理して自身のウォレットで直接取引できます。スマートコントラクトによりすべての取引は自動実行のうえ、履歴はブロックチェーン上に記録されます。
ちなみに2023年現在、国内において承認されているDEXは存在しません。多くの仮想通貨ユーザーは、国内の仮想通貨取引所(CEX)において仮想通貨を購入し、DEXに自身のウォレットを接続して取引を行っています。
CEXとの違いは?
CEXは管理者が存在するプラットフォームで、ユーザーは日本円などの法定通貨で仮想通貨を購入したり、その仮想通貨を売買したりすることができます。仲介者や管理者が介在しないDEXと異なり人が管理する組織なので、人件費等を確保するため取引のたびに手数料が徴収されます。
ユーザーは秘密鍵やウォレットなどの個人情報をCEXに預け、仮想通貨もその管理下で取引することになります。そのためCEXがハッキングに遭うと預けた自身の通貨もまるごと盗まれるリスクがあり、実際にそのような被害が何度も起きています。
DEXは、スマートコントラクト機能を持つイーサリアムがローンチされて初めて技術的に可能となりました。それより以前から存在していたのはすべてCEX(中央集権型取引所)でした。
DEXの仕組み
DEXの仕組みについて詳しく解説しましょう。
スマートコントラクト
DEXで管理者が不在でも自動取引が可能な理由は、スマートコントラクトを活用しているからです。スマートコントラクトとは、あらかじめプログラムした通りに契約を自動実行する仕組みのことです。
これを初めて可能にしたのがイーサリアムブロックチェーンです。スマートコントラクトを使えばブロックチェーン上でさまざまなアプリケーションを稼働させることができますが、DEXもその一つとして開発されました。
DEXでは、単独ではなくペアや複数の通貨がセットでプールされており、各通貨同士の数の積は常に一定になるようにアルゴリズムが組み込まれています。ユーザーはそのうちの一種類の通貨をそのプール内に預けて、入手したい別の通貨を取得します。すると、スマートコントラクトの働きにより通貨の量に合わせて価格が自動的に調整されるようになっているのです。
こちらの記事でスマートコントラクトとは?どんな仕組みで動いている?といった疑問の答えについて詳しく解説していますので併せてご覧ください。
AMM vs オーダーブック方式
DEXを動かす仕組みとして考案されたのが、取引所での通貨価格を自動調整する「AMM(自動マーケットメーカー)」です。AMMを導入すると、必ずしも売り手と買い手を同時にマッチングさせる必要はなくなります。
例えば2種類の通貨(XとYとします)をペアで扱っているDEXなら、売り手ユーザーは買い手がいるかどうかに関わらず好きなタイミングでXをプールに預け、代わりにYを入手することができるようになるのです。
CEXでは、株式の取引と同様に通貨を売りたいユーザーとその通貨を買いたいユーザーをマッチングしなければなりません。売り手は希望の売値を指定し、その条件で入手したい買い手が現れれば取引は成立します。これが「オーダーブック方式」です。
オーダーブック方式は売買のマッチングに時間がかかる
ところがオーダーブック方式は、売値だけでなくその数量も条件が一致しなければならず、その相手を探して取引を終了させるまでにどうしても時間と手間がかかるのが課題でした。しかもマッチングがうまく進まなければ、流動性が乏しくなるため取引所としての機能が薄れるリスクも誘発します。
とりわけイーサリアムにとって、時間のロスを伴うオーダーブック方式は市場価値を降下させる致命傷にもなりかねませんでした。取引が混み合うと手数料が高騰し、取引に時間がかかるスケーラビリティ問題を抱えているからです。
こちらの記事でイーサリアムの強み、弱み、活用事例について詳しく解説していますので併せてご覧ください。
AMMのユーザビリティの良さによりDEXの流動性を高める効果も生まれ、AMMを導入してからはDEXの市場規模が飛躍的に拡大しました。
流動性マイニング
DEXの流動性を確保するための重要な仕組みとして「流動性マイニング」があります。DEXはサービス開始に向けて投資家(リクイディティ・プロバイダーと言われます)から仮想通貨を一定量集めて、取引所として機能するだけの流動性を生み出さなければなりません。
流動性確保のために仮想通貨をプール内に提供してもらう報酬として、DEX独自トークンを与えるインセンティブを設けます。取引の手数料をトークンとして分配したり、中には数千%にもおよぶ利子を上乗せしたりする例もあり、これを「流動性マイニング」といいます。
流動性マイニングによって利益を得られる可能性
リクイディティ・プロバイダー(以下LP)としては、仮想通貨を提供してもDEX自体が順調に運営されるかどうかの保証はないため、少なからずリスクを負わなければなりません。そこを越えて投資を呼び込むには、それ相当の「旨み」が必要といえるでしょう。
DEXの運営が好調で取引が活発化すれば、LPが受け取る手数料収入も増えるでしょう。そして、DEX独自トークンの価格は上昇し、それらを売却すれば潤沢な利益を手にすることもできます。そのように市場価値を高めつつ、いかにLPの利益も確保できるかがDEXの重要課題といえるのです。
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DEX4つのメリット
DEXのメリットについて解説しましょう。具体的には以下の4点になります。
- 低コスト
- 政府による規制を受けない
- 一般層からの資金流入が誘導できる
- 新興国市場が取り込める
それぞれについて掘り下げましょう。
低コスト
DEXは、管理者が存在しないため取引の際に発生する手数料が無料か、極めて安価に利用できます。トランザクションの認証には手数料が必要ですが、CEXのように管理者に支払う手数料がほぼ必要ないというのは大きなメリットでしょう。
政府による規制を受けない
DEXの運営は、すべてスマートコントラクトによって自律的に行われます。特定の事業者が存在するわけではないので、CEXとは異なり金融庁への届出が不要で政府からの介入を受けません。
規制を受けない中での運営が可能なため、自由な発想で投資家にとって魅力あるプロジェクトをリリースすることができるでしょう。例えば他に類のないブロックチェーンゲームやメタバースとDEXを巧みに連携すれば、国の枠を超えた一大経済圏を構築することも決して夢ではありません。
一般層からの資金流入が誘導できる
DEXは低コストで利用できる上、ウォレットを使って直接取引することが可能です。よって一部の富裕層や大企業だけでなく、一般層からも広く投資を集められると期待できます。
IDOでは資金調達を行うためにスマートコントラクトを使います。作成されたトークンは流動性プールと呼ばれるスマートコントラクトにデポジットされ、参加者はDEXでトークンを購入することでプロジェクトに資金を供給します。
こちらの記事でDEXで資金調達できるIDOの仕組みについて詳しく解説していますので併せてご覧ください。
新興国市場が取り込める
2022年の世界銀行の調査によると、新興国で口座を保有している人は71%にしかすぎません。ちなみに日本の口座保有率は約98%でほぼ全員といえます。DEXは身分証明が必要ないため、ネット環境とデバイスさえあれば誰でも利用できます。
DEXによって通貨を入手できれば、DeFi(分散型金融)を活用して資金調達や貸付といった資産運用が可能となります。そのため、いまだに銀行口座がもてない人たちにも金融サービスを提供できるようになるでしょう。
こちらの記事でDeFiの仕組み、種類について詳しく解説していますので併せてご覧ください。
DEX4つのデメリット
DEXのデメリットについて解説しましょう。具体的には以下の4点になります。
- スケーラビリティ問題のリスクがある
- UIが複雑
- サポートが受けられない
- 法整備が追いついていない
それぞれのデメリットについて説明します。
スケーラビリティ問題のリスクがある
DEXでは、イーサリアムブロックチェーンなどの上で必ずスマートコントラクトを活用します。よって取引が多くなると処理に時間がかかるスケーラビリティ問題リスクが生じます。
イーサリアムは確実にアップデートを繰り返しているため、スケーラビリティ問題は徐々に解消の兆しはあります。加えてイーサリアムのレイヤー2であるポリゴンやイーサリアムキラーと言われる、手数料が安くて取引スピードが速い通貨も複数ローンチされています。
リスクは軽減していますが、ノーリスクではないので注意が必要です。
こちらの記事でPolygon(ポリゴン)の成り立ち、仕組みについて詳しく解説していますので併せてご覧ください。
UIが複雑
DEXは、ユーザーが自身でウォレットを接続して取引を行う必要があります。CEXならウォレットを預けて取引ができるので、比較するとUIが複雑で初心者にはハードルが高く感じられるかもしれません。
サポートが受けられない
DEXは管理者がいないため、サポートを受けることができません。カスタマーサービスのような問い合わせ先がないので、アクシデントがあっても自力で対処するほかないでしょう。
法整備が追いついていない
DEXは政府からの介入を受けない反面、法整備が満足になされていない点は注意が必要です。とくに近年、DEXをはじめとするDeFiにおけるハッキング件数が急増しています。
被害に対する正式な救済や補償に関する法律が存在しないので、通貨が盗まれたとしてもあくまで自己責任となるのが原則です。
DEXの将来性
DEXはCEXの数に比べると非常に少なく、2023年現在では日本国内には存在しません。しかし管理者不在で手数料が安く、自律運営が可能なため今後は増加してくると考えられます。
例えば、DEXの中で長い歴史をもつUniswapは1,500種類超の仮想通貨を取り扱っており、CEX(最多で1,400種類)を大きく上回っています。しかも、以下のようなスマートコントラクト系サービスとの親和性を深めていけば、さらなる発展が見込めるでしょう。
- NFT
- ブロックチェーンゲーム
- メタバース
- DAO(分散型自律組織)
DEXでよくある質問まとめ
- DEXとは?
-
DEXとは、Decentralized Exchangeの略で日本語では「分散型取引所」を意味します。イーサリアムやポリゴンといったブロックチェーンを基盤とし、管理者が不在で個人がP2Pにより仮想通貨の直接取引ができるDApps(分散型アプリケーション)の一種です。詳しくはこちらにジャンプ。
- DEXとCEXの違いは?
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CEXは管理者が存在するプラットフォームです。仲介者や管理者が介在しないDEXと異なり人が管理する組織なので、人件費等を確保するため取引のたびに手数料が徴収されます。ユーザーは秘密鍵やウォレットなどの個人情報をCEXに預け、仮想通貨もその管理下で取引することになります。詳しくはこちらにジャンプ。
まとめ
様々な業界において中央集権的管理者のサービスを利用することによる、個人情報の搾取や高額な手数料への弊害が強く指摘されています。その観点から、ブロックチェーンがもつ管理者不在の分散型サービスへの需要がますます増加していくでしょう。
分散型サービスの代表選手がDEXです。今後、Web3においてその注目度は確実に高まっていくと考えてよいでしょう。
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