近年、ビジネスの起点を人の勘や経験のみに頼らず、データを緻密に分析・活用することが広く常識化してきました。
そこでDXの担い手として「データサイエンティスト」が大変注目されています。データを活用してイノベーションを創出したり、顧客満足度を高めたり、業務効率を向上させるエンジニアとして多くの企業から引く手あまたです。
今回は、そんなデータサイエンティストへの転職に関する特集です。転職がおすすめの理由やデータサイエンティストを必要としている企業の特徴、業界、キャリアパスについて詳しく解説します。
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なぜいまデータサイエンティストの転職事情が熱い?
早速、データサイエンティストの転職市場が活気あふれる理由を解説しましょう。
データサイエンスの需要は増加している
ビッグデータを収集・分析してあらゆる社会課題を解決するデータサイエンスの需要は、世界的に拡大する一方です。データサイエンスを活用すると、以下のようなメリットがあります。
- 顧客の好みやニーズ、トレンドを読み取り品質向上や新商品開発に活かせる
- イノベーションが創出できる
- 人の勘に頼らず属人化を解消できる
- 業務効率を向上できる
ビッグデータを活用したビジネス戦略が主流となり、データサイエンティストの需要が急速に拡大しています。株式会社矢野経済研究所の「データ分析関連人材規模に関する調査を実施(2023年)」によると、2023年度の国内データ分析関連人材規模を123,400人、2025年度には176,300人に増加する見通しです。この予測は、様々な業界でデータ活用が進むことを示唆しており、それを支えるデータサイエンティストの需要増加が見込まれます。
上記のようなメリットを確実に享受するためには、ビッグデータを収集・分析し、ビジネス課題を抽出するデータサイエンティストの存在が大きくものを言います。そのため、データサイエンティストの需要が非常に増加しているのです。
即戦力の採用に苦戦している企業が多い
データサイエンティストへのニーズが大変増加している反面、その数は絶対的に不足しているのが現状です。その証拠に、ハローワークの求人統計データによると、令和4年度の有効求人倍率は2.77という高い数字をマークしています。しかも即戦力となるとさらに限定されるため、採用に苦戦している企業が多いのも特徴です。
経済産業省の「IT人材需給に関する調査(2019年3月)」では、2030年までに最大約14.5万人のIT人材が不足すると試算されており、特にAI・データサイエンス人材は深刻な不足が予想されています。
その理由として、データサイエンティストの歴史が浅いこと、とくに国内ではデータサイエンティストの教育機関が非常に少ない点などが挙げられます。よって、データサイエンティストとしての実力を磨けば、好条件でやり甲斐のある仕事につける可能性が高いのです。
年収が高い
厚生労働省の職業情報提供サイト「jobtag」によると、データサイエンティストの令和5年平均年収は600〜1,100万円です。さらに、キャリアや実力を上げれば年収1,500万円超も夢ではありません。
ちなみにアメリカでは、データサイエンティストへの評価が大変高く、平均年収は3倍以上にもなるため、海外を視野に入れると、大幅な年収アップも期待できるでしょう。
こちらの記事でデータサイエンティストの年収を決定づけるスキルレベルについて詳しく解説していますので併せてご覧ください。
ミスマッチが起こりにくい
データサイエンティストの仕事は、他の人材で容易に代替できるものではありません。事前にどのような業務を任されるかがある程度明確になるため、ミスマッチが起きにくいのが特徴です。
したがって、転職したものの、こんなはずではなかったと後悔するリスクが低いといってよいでしょう。
データサイエンティストが転職してよかったと思える企業を見分ける5つの特徴
データサイエンティストとして働く価値を見出せる企業で働くことで、データサイエンティストは自身のスキルを存分に発揮し、ビジネスに大きなインパクトを与えられるでしょう。キャリアを考える上で、これらの特徴を備えた企業を探すことが、データサイエンティストにとって重要な指針になるはずです。
DXで競争力を高めようとしている
DXによってイノベーションを起こしたり、企業価値を高めて競争力を向上させようとしていたりする企業は、積極的にデータサイエンティストを探しています。
DXは、単なるデジタル化ではありません。企業風土や業界の常識を一変させるサービスや商品を提供して飛躍的に成長するのが目的です。そのためには、膨大なデータから人知を超えた示唆をいち早く取り込み、ビジネス利用へ繋げられる優秀なデータサイエンティストの存在が極めて重要になるのです。
AIサービスの開発に積極的
今やAIサービスの開発合戦は、あらゆる業界においてすさまじい勢いで広がっています。優秀なAIの開発には、ビッグデータの有効活用が欠かせません。
重要度の高いデータを効率的に収集し、機械学習を重ねて実践的なAIを開発していきますが、一度で上手くいくわけではありません。トライアンドエラーを繰り返し、商品化できるレベルにまで昇華させるには、データサイエンティストの力が必要になります。
データドリブンな意思決定を重視
データサイエンティストにとって、自身の分析結果が経営判断に活かされることほどやりがいのあることはありません。データドリブンな意思決定を重視する企業では、データサイエンティストの知見が重要視され、ビジネスに直結するインパクトを与えられます。
例えば、楽天グループは、膨大な購買データを活用して、ユーザーの嗜好に合わせたレコメンデーションを実現しています。データサイエンティストの分析が、直接的に顧客満足度向上とビジネス成長に貢献しているのです。このように、データサイエンティストの力を最大限に引き出し、ビジネスの意思決定に活用する企業は、データサイエンティストにとって魅力的な環境だと言えるでしょう。
最先端のテクノロジーへの投資に積極的
データサイエンティストが腕を振るうためには、高性能なハードウェアや最新のソフトウェア、クラウドインフラなどが必要不可欠です。最先端のテクノロジーやツールへの投資を惜しまない企業は、データサイエンティストにとって理想的な環境を提供してくれるでしょう。
例えば、ソフトバンクグループは、データサイエンティストが活躍できる基盤として、大規模な社内データプラットフォーム「STADIA」を構築しています。膨大なデータを高速に処理できるインフラと、最新の分析ツールが揃っており、データサイエンティストは思う存分に能力を発揮できます。このように、イノベーションを生み出すための積極的な投資を行う企業は、データサイエンティストの成長とキャリアアップを後押ししてくれるはずです。
異分野の専門家とのコラボレーションを推奨している
データサイエンスは、単に統計やプログラミングのスキルだけでは完結しません。ビジネス課題を解決するためには、様々な分野の知見を結集する必要があります。異分野の専門家とのコラボレーションを推奨している企業は、データサイエンティストにとって刺激的で学びの多い環境だと言えます。
例えば、トヨタ自動車は、データサイエンティスト、エンジニア、デザイナーなど、多様な専門家がチームを組んで、モビリティサービスの開発に取り組んでいます。異なる視点や知識を持つメンバーとの協働は、データサイエンティストの創造性を刺激し、新たなイノベーションを生み出すきっかけとなります。このように、多様性を尊重し、チームワークを奨励する企業は、データサイエンティストの成長と活躍の場を広げてくれるでしょう。
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データサイエンティスト需要が多い業界
次に、データサイエンティストへの需要が多い業界を具体的に紹介していきましょう。
製造業
製造業では、品質管理や新商品開発にビッグデータが活用されます。顧客データや消費動向、売上データ、在庫データ、工場内の稼働データなどを収集、分析して、品質改善や製造プロセスの効率化、リスク管理などを推進するために、データサイエンティストを採用しています。
金融業
銀行や保険といった金融業界でも、以下のような分野でビッグデータは多用されています。
- 融資の際の与信
- 顧客と金融商品やサービスのマッチング
- 金融工学(フィンテック)による高度な新商品開発
ビッグデータの有効活用によって収益性を高めたり、リスクを回避したりするうえで、データサイエンティストの力が大いに発揮されます。
不動産業
不動産業界でも「不動産テック」という言葉で象徴されるように、以下のようなデジタル化の波が押し寄せています。
- 不動産情報
- 都市開発
- 不動産価格の査定
- 賃借・売買の仲介
- 不動産価格の将来予測
さまざまな面でデータ活用が進んでいます。今後もこの動きはますます拡大していくと考えられるので、データサイエンティストの活躍の場も広がっていくでしょう。
ゲーム
ゲーム業界でも、まさにデータ戦争が激しく繰り広げられています。プレイデータや顧客アカウントデータなどを総合的に活用して、ユーザーのインサイトを予測したり、ユーザーの獲得やエンゲージメント、さらに定着による収益増へと繋げていきます。
メタバースやブロックチェーン、NFTといったWeb3.0との親和性も高いので、さらにデータ活用が複雑化・高度化すると考えられます。そのため、データサイエンティストのニーズは一層高まると予想されます。
ヘルスケア
医療機関において以下のように大量の医療ビッグデータが活用されています。
- 治療や早期発見
- 医薬機器開発
- 創薬
- 個人を対象とした病気の予防や健康維持、食事・睡眠改善
世界有数の超高齢化大国である日本では、これからもヘルスケア業界への注目と期待が高まる一方です。その中で、データサイエンティストが果たす役割は極めて重要と言わざるを得ません。
自治体
デジタル庁が発足され、自治体のDXが加速しています。以下のような自治体業務は、ビッグデータと密接に関わりがあります。
- 人口変動
- 気候変動
- 地方活性化
- インフラ整備
- 経済・財務
- 医療・福祉
- 教育・子育て支援
- 生活支援
解決課題は膨大で、国、都道府県、市町村、さらにその関連団体を含め、データサイエンティストを活用したさまざまな施策を講じる動きが活発化しています。
コンサルティング
経営とデータサイエンスも密接につながっています。経営者や当事者では気が付かない強みや弱点を客観的なデータから探り当て、マーケティングに活用すると収益が大幅に改善することはよくあります。
もちろんそれには、経営に関する知見を身につける必要がありますが、その将来性は非常に高いと期待できます。
農業
近年では人口減や少子高齢化を背景に、ロボットやICT、AIなどを活用したスマート農業が、大手企業を中心に展開されています。属人化が激しい農業において、省人化しながらの高品質な農作物の栽培や気候変動リスクへの対策などが積極的に行われています。
これには、ビッグデータを収集・解析し、業務効率を高める施設や機器の導入が大きな鍵となります。その担い手としてデータサイエンティストの役割は非常に大きいです。
広告業
近年、広告媒体はテレビや新聞などよりインターネットに移行しています。顧客の購買履歴やWebサイト・アプリなどのカスタマージャーニーをトラッキングし、いかに適切な広告やレコメンドを守備よく配信できるかが、広告効果を大きく左右します。そのデータ分析と活用にあたり、データサイエンティストは大いに活躍できます。
データサイエンティスト転職後のおすすめキャリアパス
最後にデータサイエンティストのキャリアパスについて解説しましょう。データサイエンティストの知識とスキルは、さまざまな方面で活かせるので、転職後さらにステップアップできる可能性が大きいです。
上級データサイエンティスト・データアーキテクト
データサイエンティストとしてのキャリアを積み重ね、高度な分析手法や機械学習アルゴリズムに精通することで、上級データサイエンティストやデータアーキテクトへとステップアップできます。複雑なビジネス課題に対して、最適なデータ分析のアプローチを設計・実装し、組織のデータ活用を牽引する役割を担います。
例えば、金融機関における不正取引の検知システムの開発や、製造業におけるIoTデータを活用した予知保全モデルの構築など、高度な専門性が求められるプロジェクトをリードすることができるでしょう。
AIエンジニア・AIリサーチャー
データサイエンティストは、膨大なデータ学習が必要となるAIの開発で力を発揮できる場面が多いです。そのため、アルゴリズムやデータベース関連のスキルを活用してAIエンジニアとしてプロダクトの製造やAIサービスの開発を手がけるのもよいでしょう。
Python、R、SQLなどのプログラミングスキルや、scikit-learn、TensorFlow、PyTorchなどの機械学習ライブラリの使い方に長けているため、AIエンジニアへの転身は自然な流れと言えるでしょう。
例えば、自然言語処理を用いた感情分析システムの開発や、画像認識技術を応用した自動運転アルゴリズムの研究など、AIの可能性を追求する挑戦的な仕事に取り組むことができるでしょう。
データコンサルタント・データストラテジスト
データサイエンティストとしてのビジネス理解と分析スキルを武器に、データコンサルタントやデータストラテジストとして活躍することも可能です。企業のデータ活用戦略の立案や、データドリブンな意思決定の支援など、組織のDXを推進する役割を担います。
企業の課題解決や収益増を実現するために、データサイエンティストとして培った分析力や提言力は大変役に立つでしょう。例えば、小売業における顧客セグメンテーションとターゲットマーケティングの戦略立案や、製薬会社におけるリアルワールドデータを活用した新薬開発の意思決定支援など、データの戦略的活用により企業の競争力強化に貢献することができるでしょう。
IT技術やシステムに特化したITコンサルタントとしても、機械学習や統計学のプロとして適切なソリューションの提案が可能です。マッキンゼーやボストン コンサルティング グループといった大手コンサルティングファームでも、データサイエンスの専門家を積極的に採用しており、データサイエンティストのスキルに対する需要の高さがうかがえます。
マーケター・UXリサーチャー
データサイエンティストの知識を使えば、企業の売れる仕組みをデータを活用しながら構築するマーケターになることもできます。データサイエンティストとしての分析力とビジネスセンスを活かして、事業企画や新規事業開発の分野でキャリアを築くことも可能です。データに基づく市場分析や顧客ニーズの把握から、新たなビジネスアイデアを創出し、事業化に導く役割を担います。
また、新たな商品やサービスが市場で評価されるかを事前に調査するUXリサーチャーとして活躍することもできるでしょう。例えば、ECサイトにおける購買データの分析から新商品企画を提案したり、ヘルスケアデータを活用した予防医療サービスの立ち上げに携わったりするなど、データインサイトを事業価値に転換する挑戦ができるでしょう。
金融工学エンジニア・クオンツアナリスト
データサイエンティストの数理的な能力は、金融業界でも高く評価されています。金融工学エンジニアやクオンツアナリストとして、金融市場のデータ分析や、トレーディングアルゴリズムの開発、リスク管理モデルの構築など、高度な数理的手法を用いた業務に携わることができます。
例えば、機械学習を用いた株価予測モデルの開発や、デリバティブ商品の価格設定、ポートフォリオ最適化などのタスクに取り組むことができるでしょう。データサイエンティストの持つ統計学や確率論、最適化理論などの知識は、金融工学の分野で大いに役立ちます。
プロジェクトマネージャー
データサイエンティストは、データ分析に加えてプログラミングやネットワークなどのインフラ、セキュリティ、開発プロセスなどについての知見を得ることによりスキルレベルをアップできます。そのレベルによっては、大手企業でプロジェクトマネージャーとして働くことも可能でしょう。
起業家・フリーランス
データサイエンティストとしてのスキルと経験を積んだ後、自らの手で新たなサービスやプロダクトを生み出す道もあります。データ分析の力を活かして、社会課題の解決や利便性の向上につながるようなイノベーティブなビジネスを立ち上げることができるでしょう。
また、フリーランスのデータサイエンティストとして、複数の企業や組織のプロジェクトに関わることで、多様な業界や課題に対するソリューションを提供することも可能です。スキルアップとビジネス理解を継続的に積み重ねながら、データの力で社会に価値を提供できる道を切り拓いていきましょう。
こちらの記事でフリーランスのデータサイエンティストになるメリットについて詳しく解説していますので併せてご覧ください。
データサイエンティストの転職でよくある質問まとめ
- なぜ現在データサイエンティストの転職需要が高まっているのですか?
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データサイエンスの需要増加、即戦力人材の不足、高い報酬水準など、データサイエンティストに有利な転職マーケットが形成されているためです。DXの加速に伴い、ビッグデータを活用してビジネス課題解決や新たな価値創出を図る企業が増えており、専門スキルを持つデータサイエンティストの採用に積極的です。
- データサイエンティストの転職先として魅力的な企業の特徴は何ですか?
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- DXで競争力強化を目指している
- AIサービス開発に注力している
- データドリブンな意思決定を重視している
- 最先端テクノロジーへの投資を惜しまない
- 異分野の専門家とのコラボレーションを推奨している
このような企業では、データサイエンティストの専門性を存分に発揮でき、スキルアップとキャリア形成の機会に恵まれています。
まとめ
データサイエンティストは、さまざまな業界で需要があるため、すでにデータサイエンティストとして働いている方も、まったく別職種の方でも、転職のチャンスは大いにあります。
また、スキルアップすればさまざまな方面へのキャリアパスも実現するでしょう。データサイエンティストになるには、多くの学びが必要ですが、その分、将来的に活躍の場が大きく広がると期待できます。興味のある方は、ぜひトライしてみてはいかがでしょうか。
Tech Forwardに登録されているAI・Web3分野の最新求人一覧を以下からご覧ください。
Tech Forward公式Discordには、AI・Web3・メタバースなど先端テクノロジーに興味のある方が集まっています。最新テクノロジー情報のキャッチアップや、同じ興味分野がある方との人脈づくり、最新技術活用の議論、お仕事情報GETが可能です。ぜひ気軽にTech Forward公式Discordにご参加ください!
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